社説 「現場の意識」の精査を

 近年、「価値観の多様化」を重視するトレンドが広がっており、ダイレクトセリング化粧品分野の製品開発においても、従来の枠組みにとらわれず、個々人の価値観や考え方に沿ったラインナップを投入する動きが活性化している。
 「ジェンダーレス」は、現在の化粧品開発のキーワードの1つとも言える。もともと、男性化粧品市場は化粧品分野において〝ブルーオーシャン〟という位置づけで、開拓の余地があるとして各社がチャレンジしてきたが、期待したような成果を得られてこなかった。だが、近年の「価値観の多様化」を背景に情勢が変わりつつある。
 かつては、男性の化粧は、数こそ少ないものの、若年層に需要がみられたが、昨今は若者だけでなく、ミドル~シニアにもそのニーズが広がっている。スキンケアに加え、ファンデーションなどのメークアップアイテムを使う男性も徐々に増えてきているという。実際、ミドル世代の男性がファンデーションを使用することで、加齢による肌悩みをケアし、印象をアップさせることができるとして、肌チェックやメーク体験を行うケースが増えているようだ。
 こうしたトレンドの背景には、「価値観の多様化」だけでなく、コロナ禍で流行した〝おうち美容〟の浸透があるという。リアルでの顧客接点がコロナ禍前と同様の稼働を見せている現在、各社は女性だけでなく男性にもスポットを当ててニーズ掘り起こしに注力している。
 ポーラが来年1月に発売する「リンクルショット メディカルセラム デュオ」も、女性だけでなく男性の使用を想定したアイテム。実際の効果実証にもミドル世代の男性の使用前後を紹介するなど、潜在需要の掘り起こしに力を入れている。一方、販売現場では、「男性需要へアプローチするきっかけがない」という声が聞かれる。これまでの場合、販売員や愛用者の家族などのつながりで細々と男性への販売を行っていた。特に、ベテランの販売員にとって、新たに男性市場を開拓するというのは相当の困難を伴うことは容易に想像できる。同社は、パーソナライズドブランド「アペックス」においても、男性(自認含む)の肌分析体験人数が1万人超となり、ブランドのジェンダーレス化を進めているが、先に挙げたように、メーカー側の狙いと実際の販売現場における意識のギャップは解消されていないとみられる。
 従来のサロン戦略が頭打ち状態の現在、ポーラはあの手この手で新たな顧客づくりを図っている。しかしながら、メーカー主導による改革が、特にベテラン販売員にどこまで理解され、受け入れられているのか、さらに精査する必要があるのではないだろうか。ベテラン販売員から〝切り捨て〟と受け取られないような舵取りが求められている。

(2024年11月28日号)