社説 〝脱・訪販依存〟への布石か

  1面で報じている通り、ダイレクトセリング化粧品市場では、老舗企業を中心に業態改革に取り組む動きがみられる。その一方で、コロナ禍の間に受けた打撃からの回復が予想を下回っており、業績面ではコロナ禍前の水準まで戻っていないケースが少なくない。市場は今後も不透明な状況が続くとみられるが、そのような中でも、各社はビジネスモデルの改革が”待ったなし”となっている。
 業態改革の最たる例は、ポーラだ。同社は今年に入り、「ポーラ ザ ビューティー」など委託販売チャネルにおける営業網以外のリアル接点の構築を急ピッチで進めている。4月に静岡県磐田市、6月に兵庫県姫路市および静岡県浜松市、9月に山口県山口市および山陽小野田市において、化粧品専門店に出店。10月にも北海道旭川市に出店し、化粧品専門店でのブランド訴求を強化している。従来、同社の店舗戦略といえば、先に挙げた「ポーラ ザ ビューティー」など地域に根ざした店舗網や、百貨店でのポーラコーナーだったが、これにショッピングモール等の商業施設で営業する化粧品専門店が加わった。また、別のアプローチとしては、東京・二子玉川に体験型店舗を営業しているほか、9月12日に東京・渋谷の渋谷スクランブルスクエア6階にも新店舗をオープン。アクセスの良さを活かしてポーラブランドを訴求していくとしている。
 コロナ禍後から本格化したこれらの店舗戦略の先には何があるのか。同社は現在、オンライン・オフラインを両軸とした店舗網の構築を進めているが、主力の委託販売チャネルの営業力低下が背景にある。販売員の高齢化に伴う営業網の縮小は、ポーラに限らず老舗のダイレクトセリング化粧品企業にとって喫緊の課題であるが、ポーラの場合、2000年代のはじめから従来型訪販からサロンビジネスへのシフトを進めて事業の「見える化」を実施してきた。あわせて、最高峰ブランド「B.A」やシワ改善美容液「リンクルショット」のヒットによって、ブランドイメージの刷新にも成功してきた。それがコロナ禍によって崩れ始め、既存営業網の急激な縮小が起きていることに対する危機感のあらわれが、昨今の施策と言える。
 訪販チャネル以外への進出で懸念されるのは、既存販売網との商圏の競合だ。この問題があることから、選択肢には含んでいるが未だ多チャネル化を図っていない企業もある。ポーラではこの問題に関しては、多チャネル化による相乗効果が期待されること、さらに言えば、将来的にさらなる縮小が予想される既存販売網への依存度を減らすことを念頭に置いているとみられる。ともすれば”切り捨て”にもなりかねない一連の施策、慎重に進める必要がある。