社説 リアル・デジタルのバランスこそ

本紙が実施した「第76回ダイレクトセリング(DS)実施企業売上高ランキング調査では、調査企業121社の小売ベースの売上高総額は1兆3674億500万円となった。前期と比較な120社の売上高総額は1兆3640億7100万円で、前期比3.4%増、2023年12月の前回調査時比で0.5ポイント改善した。各社の直近業績をみると、バラつきはあるものの、概ね回復基調にあることが窺える。とはいえ、多くの企業では、コロナ禍前の水準には戻っておらず、予断を許さない状況が続いている。
 2020年から続いたコロナ禍も、2023年5月の5類移行をきっかけに、社会経済活動の本格化にシフトした。一方で、ロシアによるウクライナ侵攻、パレスチナ問題など、世界情勢は不安定さを増している。それらを背景に歴史的な円安が加速、社会のあらゆる分野でコストが増加し、企業活動、消費生活ともに厳しさが増している。コロナ禍も概ね沈静化したものの、今夏は第11波に見舞われるなど、引き続きニューノーマルに対応した活動が求められている。こうした流れを経て、ダイレクトセリング化粧品分野では、コロナ禍で培ってきたノウハウを活かし、オンライン・オフライン両軸の施策が業界の新たなスタンダードとなりつつある。
 このビジネスは、バブル崩壊やリーマンショックなど社会情勢の変化や消費者の価値観の多様化の影響を受けてきたが、近年は多くの企業において、業態改革の成果がみられていた。その最たるものがサロンビジネスの浸透で、地域密着型の拠点によって、従来型訪販の課題であった「見える化」が大きく進展した。しかし、コロナ禍で顧客と直接対面することが一時的に難しくなったことで、休業・閉店を余儀なくされるサロン・店舗が出る事態となった。その半面、ビジネスのDXを推進し、SNSやさまざまなツールを駆使して、リアル・デジタル双方のメリットを活用した施策に取り組む企業が増えた。企業が主体的にイベントやセミナーを開催するとともに、代理店やサロンベースで独自の取り組みを実施して、コロナ禍の困難を乗り越える動きもあった。
 2024年は、このビジネスが最も得意とする対面での販売、コミュニケーションを強化する動きが強まっている。リアルでのイベントやセミナーは、対面でしか味わえない体験であり、オンラインにはない“密着の強さ”がある。オンライン施策は、遠隔地など、さまざまな事情でリアル会場には参加できない人でも手軽にアクセスできる。この両軸をどうバランス良く展開していくかが、過渡期にあるサロンビジネスの「次の一手」の成否を分けると言えるかもしれない。