社説 相談処理のAI活用、実用化に課題

AIを利用して、PIO―NETへの相談入力等の作業を迅速化・効率化できないか、「実証実験」を進めていた国民生活センター。成果が得られれば、26年後半の稼働を予定する次期PIO―NETでAI機能の搭載も考えられたところ、実用化にはまだ複数の課題を残すと判断。今年度~次年度の開発予算は、次期PIO―NETへ振り分けられた(7月11日号1面)。
 国センは22年~24年に3つの「実証実験」に着手。事業の委託費用として計約7600万円を計上した。
 1つ目は、相談概要に付ける「分類用キーワード」の自動サジェスト機能。相談員が手動で選択・入力しているキーワードの候補は500弱に上り(商品・役務関連のキーワード含まず)、負担となっている。
 2つ目は、電話相談の通話記録の文字起こしをAIで要約し、相談概要にまとめる機能。現在は、相談員自身が500文字以内にまとめており、この作業も負担となっている。これらの作業をAIで肩代わりできれば、消費者と事業者の間で交渉する”あっせん”など、人なればこその業務に労力を回せる。
 3つ目は、自然文(話し言葉)を入力すると、AIがPIO―NETから指定の相談情報を抽出する仕組み。現在は関連のキーワードを用いて検索しているが、自然文抽出が可能なら、キーワードというシステム自体が必要とされなくなる。
 ただ、6月までにまとまった結果は、3つの「実証実験」のいずれも、現時点の実用化に複数の課題を抱えた。自動サジェスト機能の場合、候補に表示されたキーワード全体の7~8割は相談の内容に合致。ただ、表示される候補の件数は数十~百数十にのぼり、ここから合致するキーワードを選り分ける手間を考慮すると、そこまでの労力軽減を見込めなかったという。
 相談内容のAIによる要約は、適切に行えたケースも一部にあったが、現時点では、相談員が書き直したり、内容を補足する手間が大きいと判断。もっとも詳しい情報が求められる勧誘の経緯等が省略されたり、相談者と相談員の会話に存在しない“誤情報・偽情報”の混入もみられた。
 自然文で指定の相談情報を抽出する試みは、適切な情報が抽出されるケースと、無関係な事例を出してくるケースが混在。毎年度90万件前後に達する相談情報の膨大さもあって、抽出に数時間を要する事例もあったという。
 一方、2年後の稼働を予定する次期PIO―NETは、稼働後に新要素を追加できる”拡張機能”の搭載が検討されており、AIの技術的進歩も目覚ましいことから、AI活用自体を諦めたわけではない。現時点はともかく、近い将来の実用化は十分に考えられそうだ。