社説 最大の強みを活かせ

消費者のライフスタイルが多様化した現在、ダイレクトセリング業界では、ニーズの多様化に合わせた商品やサービスが登場している。特に、デジタル・オンライン施策の導入が急速に進み、「オンライン・オフラインの融合」が今後のビジネスの鍵を握ると目されている。目まぐるしく変化するニーズに柔軟に対応しつつ、翻弄されない芯の強さをもつ舵取りがますます重要な時代になったと言える。
 ダイレクトセリング化粧品分野では、2000年代の前半から、サロン展開が従来型訪販に代わる販売チャネルとして浸透してきた。コロナ禍では、対面での活動が制限されたことでサロンを拠点としたやり方が困難になった。その対策として、デジタル・オンライン施策を積極的に導入することで顧客とのコミュニケーションを図る取組みが増加し、アフターコロナの現在では、新しいサロン、新しいダイレクトセリングの1つとして浸透しつつある。人と人がつながる対面販売を前提としながらも、デジタルツールを積極的に活用して多様な接点をもつことは、従来のチャネルでは接点がなかった潜在ニーズを掘り起こすことも可能だ。かつて、サロンが地域に密着した「見える訪販」の拠点として、掘り起こしに寄与したのと同じ構図だろう。
 ただ、20年前のサロンビジネスと、現代のOMOビジネスでは、1つ大きく異なる点がある。それは、デジタルツールを積極的に活用するかどうかだ。各社は、公式アプリやSNSといったデジタルツールを用意し、従来の対面方式ではアプローチができなかったマーケット、特に若年層に対して訴求する動きを強めている。このような施策にスムーズに対応できるのは、同じく若年層を中心とした販売員であり、それに馴染むことができない層は、事業の中心から離れていくことに危機感を感じているケースが少なくないようだ。”時代の変化”と言われればそれまでだが、人と人のつながりこそ、ダイレクトセリングの強み。それは、販売員と顧客の関係性にとどまらず、販売員と企業(メーカー)にも当てはまるのではないだろうか。
 コロナ禍ではまた、自宅でのケアを提案する”おうち美容”など、多様な施策も生まれた。OMOは今後の方向性の1つではあるが、それだけでなく、「ジェンダーレス」など近年のトレンドを背景に、年齢や性別を問わず幅広い層に美容を提案できる空気が醸成され、新たなビジネスチャンスも生まれている。消費者のライフスタイルや価値観は大きく変わったが、人のつながりを求めるのは、いつの時代も普遍的なもので、ダイレクトセリングの最大の付加価値であることは変わらない。自社の強みが何なのか、改めて見つめ直す時期と言える。