社説 「被害推計額」、再登場のワケは

特定商取引法で処分した事業者の売上高等に基づく「消費者被害の推計額」(以下被害推計額)が、執行強化のKPIに”復活”した(前号1面参照)。昨年、消費者施策のロードマップである「消費者基本計画工程表」(以下工程表)に盛り込まれ、大型処分を加速させる懸念も囁かれていた被害推計額。工程表は毎年度改定されており、3月に公表された24年度版の改定素案で削除されていたが、6月14日に決定した正式な工程表で再登場した。
 昨年決定された23年度版の工程表は、重点項目の一つに「特定商取引法等の執行強化等」を取り上げ、進捗状況を測定・把握・評価するための計9種類のKPIを設定していた。
 問題の被害推計額は、成果目標(アウトカム)を測る中期KPIの一つで、「行政処分対象事業者の過去の売上高や契約金額の推定累計額を元に算出した消費者被害の推計額」として定められたもの。特商法の執行は、処分件数が重視されると同時に、処分した事業者の売上高や契約金額が大きいほど、被害の拡大に歯止めをかけたというロジックで評価され得る。
 過去には、特商法を執行する消費者庁取引対策課の業務を対象とした行政事業レビューで、同課の”実績”を示す指標として活用。22年度の補正予算で、特商法の適切な執行を理由に3500万円を要求した際、19~21年度の3カ年分の被害推計額を提示。予算を認められた。
 23年度版の消費者白書に記載された22年度の被害推計額は1154億円。同年度に行われた、日本アムウェイや新生ホームサービス、サンパワージャパンなどの大型処分で推計額が引き上げられた。
 しかし、3月の改定素案から被害推計額が”消失”。「消費者被害の低減」というKPIに入れ替わった。3月当時、取引対策課は「売上がイコール(消費者被害の推計額)ではない」と判断したことを理由に説明。24年度版の消費者白書からも被害推計額が姿を消していた。
 が、正式決定した工程表で、被害推計額が”復活”。別のKPIであった団体向け説明会の「回数」も、23年度版と同じ「受講者数」に戻された。3月当時の取引対策課は、オンライン開催等による参加が増え、会場への来場が一般的だった頃に比べて受講者数のカウントが難しくなっているため、「回数」に変更した旨を述べていた。
 大型処分に臨む動機となり得る被害推計額を再びKPIとした目的は何か。6月18日時点で取引対策課からは「担当者が席を外している」などとして明確な回答を得られていない。ただ、特商法執行のKPIをめぐって消費者庁の方針が二転三転していることは確か。消費者行政の司令塔を自認するなら、有り得べからざることだ。