社説 社会に還元する地域密着策

 ダイレクトセリング業界では、コロナ禍を通してオンラインツールを活用した施策が活況を見せ、イベントや会員・愛用者へのフォローなどその有用性が証明された。このビジネスでは信頼性、透明性の確保が重要であり、長年にわたって各社が実現してきたが、アフターコロナの現在、オンライン施策を活用しつつ、対面でのリアル施策を再開する流れが主流となっている。言い換えれば、リアル施策による透明性確保のあり方が改めて重要性を増していると言える。
 今年3月に30周年を迎えた化粧品企業のアシュランは、長年にわたって「見える施策」「見せる施策」を展開してきた先駆けだ。例えば、佐賀県鳥栖市にある「サンセールミキ鳥栖工場」では、工場内に見学用通路を設け、会員や愛用者がものづくりの現場を直に見ることができるよう設計された。令和の現代においても、設計段階から「見せる」ことを念頭に置いた工場は珍しい存在だろう。
 また、アシュランの数々の「見せる施策」のうち、最も規模が大きいものは、福岡県大野城市の本社敷地および周辺施設だ。本社、配送センター、セミナー棟、バードハウス、美術館、スパハウス、ベーカリー&カフェ、ハイグレードな設備とサービスが特徴の「グランドエンパイアホテル」と、会員のあらゆるニーズに応える設備が整っている。加えて、これらの施設の大半は一般も利用することができ、バードハウスや美術館は入場無料で、家族連れでの訪問や、学校の課外活動などにも活用されている。「見せる施設」は、会員のために用意された設備であるが、同時に地域に還元・貢献する設備でもある。
 鹿児島県出水市にある「出水酒造」や「ホテル泉國邸」も、会員や地域に還元するというコンセプトで設計・運営されている。特に、出水市は東孝昭社長の出身地であることもあり、より地域に密着したアプローチが目立つ。「出水酒造」の焼酎づくりで使われている原材料は出水市や周辺地域で生産された「黄金千貫」を採用しているほか、「ホテル泉國邸」のレストランでも地元産の食材を使ったメニューを提供。雇用創出という側面においても、アシュラングループの設備が地域に貢献している。
 大野城市、出水市とも、アシュランの施設は明るく清潔感のある雰囲気と相まって、地域のランドマーク的な存在として知られる。ダイレクトセリング何かとはクローズドなイメージを抱かれがちだが、同社の施設はその雰囲気とは対極にあると言っても過言ではない。収益を会員だけでなく、社会に還元するというスタンスを、目に見えるかたちで実現している同社の手法は、地域密着の方向性の1つを指し示していると言えよう。