至極当然、「被害推計額」の削除

 昨年、特定商取引法執行のKPIに、特商法で処分した事業者の売上高等に基づく「消費者被害の推計額」を盛り込んでいた消費者庁が、この推計額をKPIから削除する考えを明らかにした(前号1面参照)。推計額は、処分業者の売上の総額をまるごと推計額として計上したに過ぎないもの。もともと疑問符がつけられていただけに、削除は至極当然の結論と言える。
 国は「消費者基本計画」に基づく具体的な取り組みを「工程表」と呼ぶロードマップにまとめ、これを毎年改定。この「工程表」が昨年6月に改定された際、問題のKPI行政処分対象事業者の過去の売上高や契約金額の推定累計額を元に算出した消費者被害の推計額が成果目標として新たに盛り込まれていた。この推計額が膨らめば、処分によって被害拡大を防いだ”実績”とみなされ、人員や予算の獲得で有利に働くという目算だった。
 推計額は23年度版の「消費者白書」でも記載。「消費者の自主的かつ合理的な選択の機会の確保」のため、特商法および預託法の厳正・適切な執行を行った結果、22年度に1154億だったとされている。22年度は日本アムウェイや新生ホームサービス、サンパワージャパンといった大型の処分を実施。これら3事業者のグループ分を含む売上合計額が1000億円超に達していた。
 しかし、3月に公表された「工程表」の改定案から推計額が”消失”し、「消費者被害の低減」というKPIに入れ替わった。特商法を執行する取引対策課によれば、同課を中心として庁内で検討した結果、「売上がイコール(消費者被害の推計額)ではない」と判断したという。売上をそのまま被害額とみなしていたKPIの考え方を撤回した形となる。
 23年年度は、電気・ガス大手のCDエナジーダイレクトと日本瓦斯の訪販事業に業務停止命令等の処分を実施。2社はいずれも22年6月に立入検査を受けていたため、直前の22年3月期の売上高を推計額に換算した場合、2社合計で約2600億円以上に達する。それだけで22年度の2倍を超えることになり、あまりに非現実的な数字になったはずだ。
 警視庁がまとめている「特定商取引等事犯」の検挙データは、22年の連鎖販売取引の被害額を約62億円と記載。この年はア社の元会員2人が京都府警に特商法違反の容疑で逮捕され、うち1人が同年12月に有罪となっている。仮に、推計額と同様に売上をまるごと計上したなら1000億円を超えておかしくないが、そうではない。違反行為が組織ぐるみだったならともかく、あくまで個別の事例で足を踏み外したに過ぎないなら、推計額はあまりに過大な数値だったと言うしかない。