格安SIM連鎖、問われる指導責任

  いわゆる「格安SIM」を取り扱うMVNOのうち、連鎖販売取引を行う企業とその個人代理店(ディストリビューター)の起因する消費者トラブルを問題視して、 総務省が電気通信事業法の省令、ガイドラインの改正による規制強化を準備している(11月16日号1面既報)。電気通信事業法は、トラブル抑制の方策として4年前、 販売代理店の届出義務を導入。この届出の大半を連鎖系が占める状況や、〝総務省お墨付き〟を謳う苦情などを看過できないと判断された。
 格安SIMの連鎖販売をめぐっては、3月に消費者庁が特定商取引法違反で「ゼロモバイル」を処分。 動画広告を見れば電話料金が無料となるかのように説明していたなどとして、同社とグループ2社に9カ月の取引等停止命令を出した。
 全国で寄せられていた同社の苦情件数は272件(20年6月~23年3月)。 PIO―NETで集計された「マルチ取引」における「移動通信サービス」関連の苦情相談件数は800件超に達する。 格安SIM連鎖が業界で一定の存在感を示すのと並行して、消費者トラブルも増加傾向にあった中、法執行のターゲットにされた格好と言える。
 一方、総務省は電気通信事業法に基づき、格安SIM全体を対象とする規制強化を準備している。こちらもきっかけは連鎖のトラブル。 19年の届出義務の導入後、勧誘・不実告知関連の苦情の割合は減少が見られるものの、一定数の苦情は継続しており、 法執行の強化や事業者に自主的な取り組みを促すことが必要と同省は判断。ここで、 届出事業者9万8527(3月末時点)の72.6%を連鎖系MNVOの代理店が占める状況が注目を集めた。代理店を個人の形態に絞ると、 連鎖系の割合は90.1%にまで高まり、格安SIM連鎖のための届出といって過言でない状況を生じていた。
 このような想定外の事態に加えて、届出を行った代理店が総務省等の「公認・推奨」「お墨付き」の謳い文句で勧誘する苦情も確認。 届出制度が悪用される事態を看過できないことから、MVNOを縛るガイドラインの改定が来年1月、予定されている。
 改定では、虚偽説明の具体例に〝短期解約するとブラックリストに入る〟などを追加するとともに、代理店に媒介業務を委託するMVNOの責任を明確化。 代理店に適合性原則違反の営業が広汎に確認されれば、適切な指導等の有無が「問題となり得る」ことや、 代理店が料金等を適切に説明できる能力をもつかどうかなどを確認事項に示す。違反が確認されれば、そのMVNOは総務省による業務改善命令の対象。 指導責任が厳しく問われてくるため、格安SIM連鎖の各社は対応を急ぐことになりそうだ。