値上げラッシュ、業界は苦悩の判断

    値上げの波が止まらない。ダイレクトセリング業界を含む国内市場を見渡して、ここまで広範囲かつ長期化しているケースは石油ショック時代まで遡る。 このままコストの上昇に歯止めがかからないなら、来年に「再々値上げ」という事態も考えられる。さらなる顧客離れへの懸念から高騰分の転嫁に躊躇えば、 収益のマイナス影響が避けられない。民間の自助努力で対処できる限界を迎えている。
 国内市場を値上げの波が襲うのは、過去20年で今回が初めてではない。リーマンショック前後の2007年~08年や、 政権交代にともなう金融緩和政策を背景に円安トレンドに振れた13年、2度に渡って消費税率が引き上げられた14年および19年がそうだ。 大手運送各社が一斉値上げした17年も含めば、顧客に負担を求める最終価格は常に見直しを余儀なくされてきたと言える。
 一方で、コストの削減によって、価格の引き上げを回避する努力も実を結んできた。13年の値上げ時に、本紙が実施した業界アンケートでは、 有効回答全体の88%は値上げを実施していないか、その予定がない旨を回答。様々な経費の見直し、仕入れ先との交渉、お得なプロモーションの考案といった対策に着手していた。
 ただ、昨年来の値上げの波はかつてないほどに急激かつ大型。価格の引き上げ状況に関する今号1面のアンケートで、 値上げの〝三大要因〟となっていたのは「原材料」「輸送費・送料」「資材・包材」の3つ。いずれも過去の値上げでも主要な要因となっていたが、 その規模が近年に例をみない域に達してる。
 これら〝三大要因〟に次ぐ要因にあがった「為替」は、やはり歯止めがかからない円安トレンドを反映したもの。直近1カ月は対米ドルで140円台後半を推移しており、 昨年秋の歴史的水準が間近となっている。
 このような状況の下、昨年に続いて今年も値上げを実施、あるいは実施を予定しているとした「再値上げ」の割合は、回答社全体の15%に達した。 値上げ率の最多は「6~9%」だったため、2年連続の値上げなら単純計算で約12%~19%の値上げ率ということになる。昨年に値上げをした企業の%は、 受注状況に「ほとんど影響はなかった」と回答したが、複数回の値上げとなれば、顧客の購買にブレーキがかかるおそれを捨てきれない。
 10月にはインボイス制度の開始も控えている。消費税の仕入税額控除が難しくなった企業やインボイス登録のため課税事業者に転換した免税事業者において、 増税コストを価格に転換せざるを得なくなれば、さらなる値上げ圧力につながる。このような圧力の解消や値上げの回避、賃上げにつなげる抜本的対策が国に求められる。