書面の電子化 使い物にならず、今すぐ見直しを

    書面電子化を可能とした改正特定商取引法が施行され、6月1日より契約書面等の電磁的交付が出来るようになった。しかし、大方の予想通り、DS業界の出足は非常に鈍い。
 今号4~5面の本紙アンケートでまとめた通り、電磁的交付を始める意向を持っていた会社の割合は、全体の7%にとどまり、残り9割超は検討中か、 そもそも電磁的交付の考えを持っていなかった。紙の書面に縛られてきた業界がデジタル化を解禁されたにもかかわらず、電磁的交付に二の足を踏まざるを得ない最大の理由は、 複雑に過ぎる要件をあえて定めた消費者庁の思惑にある。
 本紙は、改正法が成立した2年前にも、電磁的交付の意向のアンケートを実施(21年8月5日号4~5面)。この時は33%の企業が電磁的交付を「行いたい/行う予定」を選び、 前向きな考えを示していた。
 しかし、今回のアンケート結果は当時と様変わりしている。回答した44社のうち、「電磁的交付を始めた/始める予定」を選んだのはわずか3社。開始予定時期は1社が「7月~9月」、 2社が「10月~12月」で、6月の解禁と同時に電磁的交付を始めた会社はなかった。残りは54%が検討中もしくは未定、39%が電磁的交付を「行わない/行う予定はない」とした。
 もっとも、このような及び腰の状況は、大半の業界関係者にとって予想の範囲内だったはず。政省令によって、電磁的交付を完了するまでのプロセスに何重もの義務事項や必要事項が課されたからだ。
 その一つが、消費者のデジタル適合性を確認する義務。電子化の課題と感じる義務・必要事項から複数回答方式で選んでもらったところ、6割の会社が選択した。確認を求められる適合性は、 PDF等の電子書面の閲覧に必要な電子機器の操作を消費者が自ら行うことができることや、サイバーセキュリティの確保の状況など。ほかに、消費者から電磁的交付を受けることへの承諾を得る義務、 紙媒体で「承諾を得たことを証する書面」を消費者に提供する義務、消費者のもとに電子書面が到達したことを確認する義務といった事項も、半数の会社が課題にあげた。
 書面電子化はその出発点において、電子化ありきの政府方針が優先されたがゆえ、消費者保護の名目で“難題”というべき義務・必要事項が十数個も定められ、 特商法に通じた業界関係者でさえ頭を悩ます複雑怪奇なルールが作り上げられてしまった。その実情がアンケートで浮き彫りにされたと言えるのではないか。
 改正法の附則は、施行から2年を経過した時点で運用状況等を踏まえた見直しを検討すると定めている。2年を待たず、今すぐに見直すべきだ。