許されるのか、「電子化」口実の増員

  8月末の消費者庁の23年度予算要求において、特商法の「書面電子化」を口実とした職員の増員と予算の増額要求が盛り込まれ、 業界関係者の批判的関心を集めている。過去にも特商法の改正・運用を理由とした増員、予算要求はあったが、 改正事項は有識者会議の提言が下敷きとされ、運用強化の背景には大型の悪質商法・事件が存在した。しかし、政治主導だった「書面電子化」 は有識者会議の議論をスルー。しかも「消費者利益の擁護増進」という名目をかかげて導入されている。 それが違法行為を助長する懸念があるため増員と追加予算が必要というなら、何のための電子化なのかという話になってくる。
 23年度予算の概算要求では、「契約書面等の交付の電子化に係る監視強化」を理由に3人の増員を要求。 特商法を所管する取引対策課の定員は38人(7月1日時点)のため、仮に、この 全員が認められた場合、同課の 設置以来初めて40人を超える部 署に膨れ上がる。
 追加予算は「特定商取引法等の契約書面等の電子化関係等経費」として3500万円を新規に要求したもの (特別枠の「重要政策推進枠」を利用)。これを含んだ、取引対策課の政策費に相当する「消費者取引対策の推進」費は、 22年度比で2330万円増の2億6400万円を要求した形となっている。
 一方、監視強化に3人が必要な理由について、取引対策課は取材に「あんまり具体的なところはまだ申し上げられない」 「検討してるところ」などと説明。追加予算の根拠についても「(電子化規定の)来年度の施行に伴って法執行に必要な経費」としか述べず、 あいまいな回答に終始している。
 近年の増員要求には、17年12月の改正特商法施行のタイミングで、被害規模や社会的影響、悪質さの程度が大きい案件を専門に調査するためとして、 18年度予算で8人増を求めて6人が認められたことがある。この時は、業務停止命令期間の延長をはじめ数々の罰則強化に踏み切った大型改正で、 さらに計4度の処分が行われた「ジャパンライフ」の実質破たんとも重なった。政界を巻き込んだ事件性や社会的影響の大きさから、 6人という大量増員が認められたと考えられる。
 しかし、「書面電子化」は交付ルールの一部が変更されるに過ぎず、さらに紙という原則は維持される。しかも、 1年に渡った「書面電子化」検討会の議論は、訪販や連鎖販売が電磁的交付を行うことに複数の厳しい条件を課す方向でまとまろうとしている。 にもかかわらず、増員や追加予算を求めなければならないとすれば、そのような懸念を生じる電子化を主導した政治と、 それに唯々諾々と従った消費者庁の責任が問われてくるのではないか。