社説 訪販、連鎖をスケープゴートにするな

甚大な消費者被害を生みつづけているレンタルオーナー商法の規制のあり方をめぐり、 訪問販売と連鎖販売取引への特定商取引法の執行が強まるおそれが出てきた。
8月末、新法等で同商法の規制を求める建議を消費者委員会が消費者庁へ提出(3面記事参照)。 が、同庁は建議前のヒアリングで、被害の主因は虚偽説明等をともなう訪販、連鎖販売で違法収益をあげることにあると主張。 規制ではなく、両取引に対する厳格な法執行に徹する考えを示した。しかし、商品等が実在しない取引で元本保証を謳い、 集めた資金を別の出資者への配当に回す一連のスキーム自体に問題があることは明白。にもかかわらず、その本質からあえて目をそらしたいがため、 訪販と連鎖販売をスケープゴートにして被害発生を看過するかのような態度は許されるものではない。
ヒアリングが行われた8月22日の消費者委員会本会議で、出席した消費者庁の取引対策課長は、同課が特商法で処分してきた 「ジャパンライフ」「WILL」といったレンタルオーナー商法被害の主因について、 「消費者への虚偽の説明・勧誘等によってなされる訪問販売や連鎖販売取引等を通じて、高額の物品を購入させたり、 高額の負担を消費者にさせて、悪質事業者が違法な利益を収受する」ことにあり、 「『商品を売って預かる』という行為自体に問題の本質があるものではない」と回答(9月5日号1面詳報)。 ジャ社に4度、W社に2度の特商法処分を行ってきたことを「数々の行政処分実績がある」として誇りさえし、 「第一に必要なのは、現行法令に基づく執行強化及び体制整備」「(規制は)慎重に検討すべき」とした。
さらに、8月末までにまとめられた同庁の来年度予算概算要求で、取引対策課の法執行担当として6人もの定員増を要求するなど(4面記事参照)、 レンタルオーナー商法問題対策を口実に訪販、連鎖販売の処分強化に乗り出すかのような動きを見せる。
しかし、消費者委員会から建議やヒアリングの中で指摘された通り、 最初から自転車操業に陥ることが必至のスキームに被害を生む最大の原因があることは明らか。勧誘手段は言わば手足に過ぎない。
また、過去に発生した同種の大型被害は、雑誌広告や新聞オリコミで契約を募った「近未来通信」、 通信販売型だった「安愚楽牧場」「ケフィア事業振興会」など、訪販・連鎖以外の手段で勧誘していた。 本紙が追求してきた、200億円超を集めた「ナチュラルグループ本社」のヴィンテージ酵素オーナー権の契約者募集は、 アニューショップと呼ばれる常設店舗で常連客を相手に行われた。
ジャ社とW社に連発された処分も、単に勧誘・新規契約に歯止めをかけられなかっただけの話。実績どころか、 現行の特商法(と預託法)の限界を露呈させたに過ぎない。ヒアリングで取引対策課長は、 「イタチごっこ」の恐れを理由に参入規制導入の検討に消極的な姿勢を示したが、 処分の連発という「モグラたたき」を反省するほうが先ではないか。
訪販、連鎖販売を悪玉に仕立てあげても問題は解決しない。