社説 「モノなしマルチ」は業界外の異分子

連鎖販売取引の手法で仮想通貨等の役務契約をもちかけられるトラブルが若者に広がっているとして、 国民生活センターが注意喚起を行った(8月8日号3面既報)。 国センは、このトラブルを”モノなしマルチ商法”と命名。社会経験が未熟な世代の交友関係がターゲットにされていると警戒する。 ただ、注意喚起の中で公表された「マルチ商法(PIO―NET分類上はマルチ取引)」相談件数をみると、商品を販売する事業者の相談は はっきりと減少。図らずも、連鎖販売取引業界のメインストリームから大きく逸れた、 異分子とも言える一部の悪質な役務系事業者が全体の件数を押し上げている実態が浮き彫りとなった。
国センがまとめた18年度の「マルチ商法」相談件数は1万526件で、前年度比は12・0%減(6月末時点)。 商品・役務別の件数は、商品が同11・6%減の5036件、役務が同12・4%減の5490件で、いずれも減った。 商品・役務の各件数を年代毎に見た場合も、ほぼ全世代で減っている。
しかし唯一、件数を急増させたのが20歳代の役務相談。20歳代の商品相談は同0・3%増の1945件で横ばいなのに、 役務相談は同36・8%増の2288件で、全年代における役務相談の4割強を占めた。
役務の中身は仮想通貨やアフィリエイト、海外事業への投資話、格安の海外旅行権、FX投資用ソフトなど。 ここ数年、行政の注意喚起でやり玉にあげられたり、実際にフィールドで耳にすることも多い商材が並ぶ。 本紙も国センに先駆け、そのような”非物品系のマルチトラブル”の若者相談が増加傾向にあると指摘していたところだ(6月27日号1面)。
消費者行政は5年ほど前にも、最初は訪問販売で契約させてク・オフ期間後に知り合いを紹介させる手口を「後出しマルチ」と命名し、 注意喚起したことがある。分かりやすいネーミングならマスメディアが取り上げやすく、喚起効果が見込めるためだ。 今回の「モノなしマルチ」も多数のメディアでニュースになっており、その点は目論見通りと言えそう。
ただ、先に触れたように「マルチ商法」の商品相談は明らかに減少。国センがまとめたデータによれば、 14年度の商品相談は8501件だったため4年で40%も減っている。14年度の役務相談は2618件だから、 4年で2・1倍に増えたことと比べれば明らかに対照的だ。業界の多勢を占めるのは商品の連鎖販売。 したがって件数の推移から見て、各社のコンプライアンス徹底への取り組みは一定の成果を出してきたとも言えるのではないか。
もっとも、商品相談だけで5000件を超えているとも言え、また、業界のメインストリームに役務を扱う事業者がいないわけではない。 市場のシュリンクが件数を減らしている側面も否めない。相談件数が増えていたり横ばいだったりする事業者は、 全体の件数が減少傾向にある中で”悪目立ち”しやすくなり、行政指導や処分のリスクが高いとも言える。 件数に注意を払った取り組みの重要性は今後も変わらない。