社説 消費者庁 ジャパンライフ事件の総括を

消費者庁は、ジャパンライフの預託商法(販売方法は訪販、連鎖販売取引、業務提供誘因販売)による巨額の消費者被害事件を総括し、 類似の商法による消費者被害の再発防止に向けて本腰を入れるべきである。
類似の商法による違法行為はその後も無くなっていない。ウィル(WILL)(株)はUSBメモリを商材に同様の商法を展開して、 2018年12月に業務停止と業務禁止を命じられたが、この7月19日には再度、業務停止を命じられている。 類似の商法による消費者被害は今後も起こり得る環境にある。
ジャパンライフ事件から見えてくるのは、法の隙間を突かれたというよりは、同事件に取り組んだ消費者庁の失態であろう。 そこから多くの教訓が得られる筈だ。失態の第1は初動の甘さだ。同社の処分に当たっては預託法と特商法を適用している。 特商法をベースに、消費者庁の手法を見ると、違法行為の認定は次のように行われた。1回目の業務停止の根拠は訪販、 連鎖販売共に「勧誘目的の不明示」、2回目は訪販、連鎖販売共に「重要事項の故意の不告知」、3回目は業務提供誘因販売に伴う違法行為。 4回目は連鎖販売の「重要事項の故意の不告知と契約書面の不交付など」であった。
本来であれば、これらの違法行為を1回目の処分の時にすべてを認定し、業務停止期間を12ヶ月にすべきであった。 又、2回目の処分で「重要事項の故意の不告知」を認定し、4回目の処分で再度同じ違法行為を認定したことは、 2回目の命令に対する明白な違反があったことであり、刑事告発の対象になり得る筈だ。しかし、刑事告発はしなかった。 又、4回の業務停止命令の発令に際しては、その都度「違反行為の発生原因について調査分析の上検証し、その結果を報告すること」、 「社内のコンプライアンス体制を報告すること」を指示しているが、毎回同じような指示が行われていることから見れば、 指示内容が履行されていなかったことを示すものであろう。指示違反も刑事罰の対象になるが、これも告発に至っていない。 更に、連鎖販売を展開する同社会員等に対する処分も行われていない。
要するに、違法行為に対して適用できる法律規定がありながら、これを有効に使わなかったということである。 消費者庁は何故、刑事告発に踏み切らなかったのか。考えられるのは、刑事告発しても証拠等が脆弱で、 警察に受理されない恐れのあることを危惧したのではないかということだ。このような対応では、 行政罰の担保措置として設けられている刑事罰が全く活かされないことになる。失態の最大の根源はここにあると考えられる。 預託商法はジャパンライフがそうであったように訪販や連鎖販売で展開されることが多いのであり、 ここに着目すれば現行の特商法の規定をフルに活用し、その成果を示せば、被害の未然・拡大防止に大きく寄与すると考えられる。
6月に消費者委員会のヒアリングに応じた名古屋経済大学法学部の佐久間修教授は「いくら立派な法制度を設けても、 やる気のない担当者では殆ど機能しない」と指摘している。重く受け止めるべきだ。