岐路に立つ化粧品訪販 老舗・大手の業績分析 シーボンB

サロン2極化、役割明確化 若年層取組みに課題



▲都市部のサロンはハイグレード感を演出してロイヤルユーザーを囲い込む
 シーボンの業績不振の大きな要因が、サロン事業の弱体化にあることについては既に触れた。2000年代以前は、サロンが「見える訪販」として競合他社との差別化につながったが、ポーラのサロン戦略の拡大に合わせて、多くの企業が各地に拠点設置し、一般化した。この流れはコロナ禍前まではサロンビジネス全盛として続いた。この中にあって、シーボンの「フェイシャリストサロン」は相対的に付加価値が下がり、影響力を落としていった。これに対し、同社は新規顧客を獲得する方策として、異業種とのコラボレーションや、展示会などのブース出展によって無料の肌チェック体験、サンプルプレゼントを実施。この施策が2010年代においては新規集客力の強化につながり、売上がピークだった2014年3月期では、イベント経由での新規来店者数が108・9%に上った。いずれも休止せざるを得ない状況が続いたが、現在は、異業種施策ではヨガ講師や着物の着付け教室等と美肌セミナーを実施。2025年3月期第1四半期末時点では、新規顧客の来店数は前年同期比13・8%増、新規顧客に対する売上高は同9・3%増とプラスとなった。しかしながら、コロナ禍を機に大きく落ち込んだ売上を回復するまでには至っておらず、道のりは遠い状況にある。
 前々回の本欄において、コロナ禍後のシーボンの業績は著しく低下していることを指摘した。ピーク時の2014年3月期(売上高150億1700万円)に対して、直近の2024年3月期(84億9800万円)は4割以上も売上を落としており、過去20年で最も厳しい状況といっても過言ではない。売上高原価率をみても、2014年3月期が18・3%、2024年3月期が24・6%と6・3ポイントもの開きがある。昨今の物価上昇が少なくない影響をもたらしているとはいえ、損益面を圧迫していることは確かだ。打開策としては、現在進めている事業の多角化は、売上をカバーするには規模が小さく、また事業そのものがテストマーケティング的な要素が含まれているため、大きな収益を見込むことは難しい。そのため、主力のサロン事業の改革が不可欠となる。
 シーボンは、全国に100店舗近くを展開している「フェイシャリストサロン」について、都市型・郊外型で役割を明確化する方針を打ち出しており、都市部にあるサロンはロイヤルユーザーを想定し、高付加価値のハイクラスサロンへのリニューアルを実施している。前期末までに9店舗を改装済みで、2025年3月期末までに12店舗、2026年3月期までに約10店舗の改装を行う計画で、全体のおよそ3割の店舗においてリブランディングを行い、60周年に合わせて主力サロンのリニューアルを完了させる予定だ。一方、郊外型のサロンについては、従来の「フェイシャリストサロン」の路線を踏襲し、来店しやすいサロン≠ニしてのイメージを打ち出していく。
 ハイクラスサロンは、優良顧客であるロイヤル会員にフォーカスした内容で、ロイヤル会員専用のロイヤルルームを設置するなど特別感≠演出。また、ロイヤルカスタマー専用デスク、限定施術メニューや感謝デーの実施、さらにはロイヤル会員限定の工場見学会を実施するなど、シーボンブランドへのローヤリティが高い会員へのフォローを充実させて囲い込む方策だ。同社の会員数は約6万2000人(2024年3月期時点)で、うちロイヤル会員は約20%としており、先に挙げたサロンやサービスの強化、さらに高価格帯アイテムの開発によって、この比率を約25%に引き上げ、事業基盤の安定化を図っていくという。
 60周年というタイミングに合わせて、ロイヤル会員重視に舵を切り、ブランドの高付加価値化で事業の継続を図ることを鮮明にしたシーボン。中期計画では、2026年3月期までに売上高100億円台への回復をめざしているが、正直なところ、足元の業績は決して芳しくはない。高収益の源となるロイヤル会員が増加する一方で、それ以外の会員層が離脱する動きもみられる。もともと同社の会員は年齢層が高めだが、その影響が今後さらに生じる可能性もある。2010年代においては、ポーラがハイブランド化に成功したが、現在とはまるで状況が異なる。また、ポーラ自身も現在はサロンビジネスの岐路にある。シーボンの戦略が今後、どのような変化をもたらすのか、注視が必要だ。

(続きは2024年11月21日号参照)