消費者庁の「デジタル取引研究会」 行政処分の抑止効果、推計法を考案

取引対策課、基本方針にエビデンス主義
従来の法執行・規制で「相談が減ってない」


 6月27日、消費者庁において「デジタル社会における消費取引研究会」なる有識者会議が立ち上げられた。 メインテーマは、AIをはじめとするデジタル技術の急速な発展が、消費取引の環境も大きく変化させている状況に対して、 購入者等の利益の保護と取引の公正さを保つために有効な施策、手段を検討していくこと。1回目の会合は、オンライン取引関連のあり方が中心となったところ、 もう一つ見逃せないテーマとして、悪質事案への厳正・迅速な対処のあり方も浮上。事務局を務めた取引対策課は”エビデンス主義”に基づき、 処分効果の推計方法を考案したとして、次回会合で実際のデータを元に委員から意見を求めたい考えを示した。 今後の特商法執行や将来的な法改正に関わってくる可能性はあるのか。

「羅針盤示して」


 「いつまでに何をやる、法律改正をする、いわゆる道筋のある研究会ではない」「(法規制の)ハードローと事業者のソフトロー、消費者の規律という3つをどう組み合わせていくことが社会全体の幸福につながるか」「全体的に大きな枠組みを考え直していかなければいけない時期にある」。
 「デジタル社会における消費取引研究会」(以下研究会)の冒頭、消費者庁の新井ゆたか長官は研究会の趣旨をこのように述べ、長期的かつ広範囲な視点から、デジタル社会と消費者取引の関係性にフォーカスした議論を望む考えを示した。
 事務局を務める取引対策課の伊藤正雄課長も、消費者庁が所管・共管する特定商取引法や取引DPF法、割賦販売法など消費者取引関係の法令を示し、「デジタル化社会が進展する中で、そのまま上乗せしてやっていくのか、あるいは根本的に変わるのか」「全然違った様相になってもいいと思っている」「垣根なく自由に発言いただいて、ぜひ羅針盤を示していただきたい」と求めた。
 研究会座長は東大副学長の大橋弘氏が就任。ほか9人の委員は経済学部教授、情報科学の専門家、弁護士のほか、大手の消費者団体、経営コンサルタント、会計事務所、データ研究のスペシャリストが顔を揃える。オブザーバーとして経済産業省やデジタル庁など計8カ所の官庁も参加する。

法規制までにラグ


 同庁が研究会を発足させた最大の動機は、デジタル社会の急速な進展と、それにともなうB to CのEC取引拡大に法規制が追い付いていないこと。デジタル社会の恩恵の影で、個人が低コストで国境を越えて悪質事業を行いやすくなり、取り締まりが困難になっているという問題意識がある。
 伊藤課長は、旧訪販法時代を含めた特商法の歴史を「悪い事案が発生して手に負えなくなれば制度を増設してきた」と指摘。取引類型毎に”深堀り”した細かな規制を定めてきた一方、「デジタルは横串的で境界がない世界」「そこにラグが発生する。そこをどう埋めていくか」とし、デジタル社会に対応した効果的な対処策について議論を求めた。
 法執行の壁となっているデジタル特有の事情は、相手方の所在が不明で特定が難しいこと、消費者が見たパーソナライズされた広告と同一の広告を特定することが難しいことなどを説明。伊藤課長自身のアイデアとして、端緒情報のAI処理による高度化・高速化、ホワイトハッカーの活用をあげ、研究会における議論を求めた。
 悪質な事業者の封じ込めを目的とした、立入検査や報告徴収、処分に至る手続きの実態に関する議論や、特商法に課徴金のような制裁措置がない点に関する議論も求めた。


(続きは2024年7月25日号参照)