ポーラの新サロン戦略、周辺の反応

「委託販売の衰退見越したものか」
背景に販売員高齢化、インバウンド狙いも

   本紙3月7日号で既報の通り、ダイレクトセリング化粧品最大手のポーラが、新たなサロン戦略を発表した。従来の「ポーラ ザ ビューティー」を含む委託販売チャネルによるサロン網とは別に、大都市や地方都市の好立地に出店エリアを絞り、「高付加価値ブランド」としての訴求力を高めるという。コロナ禍で存在感を強めているオンラインの顧客接点と、オフラインのリアル店舗の融合を図る「OMO戦略サロン」によって、新たな顧客層の開拓を進めるとしている。現時点で、戦略の詳細は明らかになっていないが、「OMO戦略サロン」は今後、2025年までに約50店舗(うち大都市型5店舗)、2026年までに約150店舗(同10店舗)、2027年までに300店舗の出店を計画している。最盛期の「ポーラ ザ ビューティー」(=PB)店舗網の約半分の規模だが、その狙いはどこにあるのか。
 「長期的な委託販売チャネルの衰退を見越しての戦略なのではないか」。長年、ポーラの営業畑に従事していた元スタッフは、今回の戦略についてこう言及する。2023年12月期における委託販売チャネルの売上シェアは61・8%で、依然として大きなシェアを占めるが、売上占有率は低下傾向が続いている。背景には、ECや海外チャネルなど、他の販売チャネルのシェア増加という点に加え、委託販売における販売員の減少という切実な問題が挙げられる。基幹サロンの「ポーラ ザ ビューティー」は約510店舗、委託販売員であるビューティーディレクターは約2万3000人。ポーラでは、販売員のプロフェッショナル化や組織網の法人化を進めて地盤強化を図っているが、一方で団塊世代をはじめとする販売員の高齢化によって、営業網の弱体化が進む。「ポーラ ザ ビューティー」を含むポーラショップはコロナ禍の中で減少の一途を辿っているが、これはコロナ禍の影響だけでなく、ベテラン販売員が営業現場から離脱し、それをカバーしきれていないことが指摘できる。
 前出の元スタッフはさらに続ける。「コロナ禍も落ち着いて、インバウンドの回復にも期待できる。コロナ禍前には、『リンクルショット』などのインバウンド人気もあり、売上を押し上げていた。新サロン戦略の店舗は、美容に関心が高い若年層をメーンターゲットとしているようだが、大きな売上が期待できるインバウンドの受け皿としての役割もあるかもしれない」。


 業界の反応はどうか。サロン展開を実施していない老舗化粧品企業のスタッフは、「これまで業界で主流だったサロンビジネスの弱点が、コロナ禍で明らかになった。弊社はサロンを出さずに地道に事業を展開し、大きな動きはなかったものの、コロナ禍でも堅実な売上を確保してきた」と述べる。同時に、「最大手の動向は業界に影響をもたらすが、ニーズが多様化している現在、個々の企業がそれぞれの得意分野で勝負する必要がある。元々、このビジネスは”右にならえ”ではなく、独立独歩の精神でやってきた企業が多い。また、大手は可能でも中小規模の事業者では導入できない取り組みもある」と、冷静に見ている。  コロナ禍を経て、20年以上にわたって業界の潮流であったサロンビジネスが、大きな転換期にあるのは事実だ。ポーラの新サロン戦略は、アフターコロナ時代における顧客接点の創出に向けた一手と言える。一方で、「ポーラ ザ ビューティー」を含む既存店舗網との商圏のバッティングなど、新たな課題も生まれそうだ。今後の動向を注視する必要があるだろう。