米MLMマーケットの今 発足から5年、過渡期の自主規制組織「DSSRC」
非協力企業をFTCへ通告、19年〜22年で15例
消費者組織が要請、100社調査で「98%に誤解招く表示」
5年前、米DSA(ダイレクトセリング協会)が発足させた自主規制組織であるDSSRC(ダイレクトセリング自主規制協議会)が過渡期を迎えている。根拠なく製品の治療効果を騙ったり、簡単に報酬を稼げるかのように煽るMLMの企業・会員のWEB宣伝を中心に、是正の取り組みを要請。大半の事例は公表された上、応答・協力しない企業は米FTC(連邦取引委員会)等の当局へ通告してきた。一方、十数年に渡ってMLMの誇大宣伝の“監視”を続ける有力消費者組織は、DSA会員を含む100社を調査した結果、その98%に誇大報酬の宣伝が確認されたと指摘。DSSRCに更なる取り組みを求めている。
▲2019年に米DSAが発足させた
DSSRCは、非加盟を含めた
DS企業やMLM企業、
その会員による誇大な宣伝に
是正の取り組みを要請
(写真はDSAサイト)
DSSRCは、非加盟を含めた
DS企業やMLM企業、
その会員による誇大な宣伝に
是正の取り組みを要請
(写真はDSAサイト)
「BBB」に運営委託
DSSRCの発足は19年1月。MLM・DS系企業とその販売員・会員が、WEBサイトやSNS等で発信する内容を独自にモニタリング。消費者団体から寄せられる情報も参考に、製品の効能効果やビジネスで得られる報酬について、具体的根拠に基づかない誇大な宣伝が確認された場合、是正の取り組みを求めている。
よくある自主規制組織との最大の違いは、調査と是正要請の権限を、DSAと利害関係を持たない外部機関に委託していること。100年以上の歴史をもつ非営利団体で、様々な業界を対象に中立的立場から不正な営業・広告活動を監視するBBB(ベター・ビジネス・ビューロー、商業改善協会)が請け負っている。活動資金はDSAが拠出する一方、実際の運営はBBBのベテラン職員が統括している。
発足以前も、DSAは自主規制に基づく指導を行ってきたが、対象は会員に限られ、その効果も外部からは判然としなかった。これに対して、DSSRCは非加盟の企業にも積極的に是正を働きかけ、問題が確認された事例は原則、社名を含めて公表している。
相次ぐ提訴に危機感
大胆な自主規制の背景には、発足までの数年に渡り、業界にとって最大の規制当局であるFTCとの緊張関係が大きく高まっていたことがある。
まず15年に、DSAの会員だったビマ社がピラミッドスキームを運営しているとしてFTCが提訴。和解金2億3800万ドルの支払いを受け入れさせた。同じくDSAの会員であるハーバライフ社も16年に提訴。同社は、和解金2億ドルの支払いとビジネスモデルの修正を余儀なくされた。
このためDSSRCの発足の際は、運用プログラムの構築でFTCに協力を打診。発足年の19年には、DSA会員だったアドボケア社、ネオラ社が立て続けに提訴され、当時の危機感が取り組みを加速させた。
発足2年目、一定成果
発足翌年の20年は製品や報酬に関して誇大宣伝の疑いがある145事例を調査。WEBサイトやSNSは約90万件のURLが対象となった。このうち約4万1000件で問題性が疑われ、調査を進めた結果、ヘルスクレームは1128件、インカムクレームは509件が確認された。
この年に是正の取り組みを要請し、公表した企業はルヴェル社、インターナショナル・マーケット・ライブ社(IML)、ビューティー・カウンター社など。ルヴェル社のケースでは「製品を飲んで糖尿病を脱した」「億万長者になれる」といった投稿の是正を求め、同社は会員に対する指導を介した削除を行い、応じなかった会員は資格を停止した。3社いずれもDSAの会員ではなかったが、急成長がみられたり、業界の大手の一角を占めるとみなされ、発足2年目で一定の成果を出した。
大手DSA会員も対象
その後も、大手・有力企業に是正の取り組みを要請。21年はドテラ社、保険・金融サービスのプライメリカ社、スウェーデンを本拠地とするジンジーノ社の米国法人、エナジック社の米国法人が対象となったほか、DSAの古参メンバーで化粧品の世界的大手であるメアリーケイ社も公表。同社の独立販売員による投稿で、具体的な根拠を示さずに「ビジネスを成功させて余剰収入を得ることができる」などの説明があったとして、類似の誇大宣伝があった計189件の投稿の削除、非公開化につながった。
一方で、是正の取り組みに非協力的だったり、DSSRCの照会に応じなかった企業については、当該事例を公表するとともに、規制当局に情報を提供してきた。 20年には、会員の間で健康食品の治療効果が根拠なく謳われているのに是正に応じなかったとして、ニューユーライフ社に対する法的措置の検討をFTCと米FDA(食品医薬品局)に求めたことを公表。同年は他にLurraLife社、FortressNetwork社、FlavonUSA社の3社を当局へ通告した。
(続きは2024年3月14日号参照)