悪質・深刻な消費者被害 早期防止へ「研究会」発足

消費者庁 11年ぶり検討再開、自民提言を踏まえ
法制度化、消費者委報告の議題化は予定せず


 「ジャパンライフ」事件等に代表される、現行法では対応が難しい悪質で深刻な消費者被害を早期に防ぎ、被害救済につなげる有効な手立てのあり方について、消費者庁が今春より検討を再開する。議題の候補は、行政から裁判所に対する差止命令申立て制度など。昨年12月の自民党の政策提言などをきっかけに着手する。関連のテーマは同庁の有識者会議が13年の報告書に盛り込んでいたが、一部を除いて具体化への議論が見送られてきた。一方、検討は委託事業で実施。検討結果の法制度化は視野に入れておらず、同様の防止策の制度化を求めた消費者委員会の報告書・意見を踏まえる予定もないという。

▲2013年の「消費者の財産被害に係る
   行政手法研究会」の提言(=写真)は、
   賦課金のアイデアが景品表示法に
   課徴金制度として盛り込まれた一方、
   行政による破産手続き開始・差止め申立て
   権限はその後の検討が見送られてきた

5月〜6月に発足


   悪質かつ深刻な消費者被害の早期防止および救済策の検討は、消費者庁の消費者制度課が委託事業により着手するもの。3月19日の入札を予定する。
 行政法や民法、民事手続法、刑法等に詳しい学識経験者4〜5人で構成する「研究会」を5〜6月頃に発足。月1回程度の会合を重ね、必要に応じて関係分野のヒアリングも行った上で、検討結果を来年春頃、報告書にまとめるという。
 「研究会」には黒木理恵内閣官房内閣審議官も委員として参加。黒木審議官は現在、消費者庁付の消費者庁法制総括官として「法制度のあり方の検討を担当している」(消費者制度課)といい、過去には消費者委員会の事務局長を務めた経歴をもつ。

検討候補に差止申立権


 「研究会」では、業法による規制が存在しなかったり、事業が破綻寸前といった理由で消費者被害を生じるケースを類型化して、それぞれに有効な被害対策等のあり方を整理、分析していく。特に、被害の急速な拡大がみられる場合については、「悪質かつ深刻な被害を念頭に、こうした被害を早期に防止するための実効性の高い手法等を検討」(仕様書より)していく。
 消費者制度課は本紙の取材に、「悪質かつ深刻な被害」を生む問題商法について「特定の事件を想定しているわけではない」とコメント。ただ、数千億円規模の被害を生んだ「ジャパンライフ」「ケフィア事業振興会」といった近年の事件が踏まえられることになるとみられる。
 「研究会」では、これら問題商法に歯止めをかけ、被害の救済に結びつく既存の法制度、仕組みを整理・分析するとともに、より有効で実現可能と考えられる手法があり得るかを検討。特に、歯止めをかける手段に関しては、行政単独で行うのではなく「裁判所による適切な関与を得ることが考えられる」(仕様書より)として、「消費者庁による裁判所に対する緊急差止命令の申立てに係る制度の創設の可否」(同)を検討候補に掲げる。

課徴金成立を後押し


 この、裁判所に対する申立て権の創設というアイデア。消費者制度課が委託事業に乗り出す大きなきっかけの中でも示されており、「研究会」で活発な議論が交わされていく可能性が高い。きっかけとは自民党の政策提言だ。
 昨年12月22日、自民党の消費者問題調査会(会長=船田元衆院議員)は「消費者法制度のパラダイムシフトに向けて 〜新たな時代の消費者法制度の構想のための基本理念〜」と題する提言書を消費者庁長官に提出。提言の内容を次期の消費者基本計画(25年度〜29年度)に反映させることや、パラダイムシフトへの具体的取り組みを求めた。


(続きは2024年2月22日号参照)