ダイレクトセリング化粧品 高まる「女性の活躍推進」への機運

多様化する価値観に対応 「ジェンダー平等」踏まえた制度も
 昨今、さまざまな分野で「女性の活躍推進」というキーワードが聞かれるようになったが、実際の取組みとしては十分な動きにはなっていないのが実情だ。 世界銀行が190の国と地域を対象に職場環境など8分野を対象に分析した結果、日本は103位で、昨年の80位から大きく後退した。女性の職業選択や賃金、 起業といった項目での評価が低いという。翻って、ダイレクトセリング業界、特に化粧品分野では、社会情勢に先んじて「女性の活躍推進」が進んでいる。 従来型訪販の時代から女性の力によって成り立ってきたビジネスだが、価値観の多様化や働き方が変わる中、 年齢や性別を問わず働きやすい環境を整えて事業体制を強化する取り組みが増えている。

サステナブル計画で女性の活躍に注力
 最大手のポーラでは、2020年6月にサステナビリティ方針を策定(2022年2月に刷新)し、2029年までのSDGsの目標数値を設定。 この中で、ジェンダー、年齢、地域格差、さまざまな「壁」の解消を掲げており、ポーラにおける地域企業オーナー、地方自治体の協業などを強化するとともみ、 女性管理職比率の男女同等、美容職のダイバーシティ推進、育休取得率の男女100%取得をめざしている。サステナビリティ方針のうち、 「人材活躍」の項目では、女性の役員比率や管理職比率にも触れている。2020年実績では、女性役員比率が27.1%、女性管理職比率が46.9%となっているが、 2029年までに女性役員比率を30%~50%に、女性管理職比率を50%以上にそれぞれ引き上げる目標を定めている。また、社内にダイバーシティ推進委員会を設け、 女性の活躍推進に加え、LGBTQ+、海外人材など、多様な価値観やバックグラウンドをもつ人材を集めることで、 急速に変化する時代に対応できる柔軟な体制構築を図っていく狙い。
 ポーラでは、コロナ禍を背景に海外市場や国内ECの売上が伸長している。一方、主力の委託販売チャネルにおいては、店舗の臨時休業、閉鎖などで苦戦している。 同社は、社会の変化を踏まえ、ダイレクトセリングを生かした柔軟な販売チャネルの設計、利便性向上を図っている。 特に、ECやオンラインツールでポーラに接触した顧客を、リアルチャネルに接続する取り組みを強化している。現在、約2.3万人のビューティーディレクターが、 時代に即したかたちで活動できるよう、「女性の活躍推進」という視点も含めた仕組みづくりを行っている。委託販売におけるオンライン決済・直送を導入したほか、 ビューティーディレクターのオンライン活動が収入に反映される仕組みを整備。 また、昨年から行っている「法人設立」モデルによって販売員のプロフェッショナル化をさらに進め、事業の持続可能性を強化。さらに、グループ横断研修や、 次世代リーダー育成プログラムといった後継者育成の制度も用意しており、ビューティーディレクターを「美容のプロ」として位置づけ専門性を高めるとともに、 事業を継続できる体制を構築して、さまざまな角度から「女性の活躍」をグループ全体で推進している。
 このほか、近年さまざまな分野で取り組みが強化されている「ジェンダー平等」に関して、ジェンダー課題に関心を持つ15歳~29歳までの若者に対し、 ジェンダー課題を体系的に学び一緒に取り組める仲間と出会う場を5月から提供を開始する。任意団体「GENCOURAGE」主催のサードプレイス 「ジェンカレ」に協力する取り組みで、講義では、「ビジネスにおける女性のリーダーシップ」に関する講座では、同社の及川美紀社長が登壇する。

女性役員比率50%以上維持
 シーボンは、ダイレクトセリング化粧品企業の中でも、女性の活躍が目立つ1社。社員の女性比率は9割以上で、女性管理職比率は81.8%(2021年3月末時点)、 女性役員比率は55.6%(同)となっている。また、「美を創造し、演出する」企業をモットーに、結婚や出産、育児、介護等、 女性が経験するライフステージをサポートする社内制度を整備している。同社は、2019年には「2019年度ウーマンエンパワー賛同企業」 のアワード表彰において大賞を受賞。さらに、「2020年度ウーマンエンパワーオンラインアワード表彰」に殿堂入り企業として参加。同表彰は、 「女性活躍という言葉がなくなる社会を」を理念に、賛同した約145社の取組みを評価するもの。同アワードでは、「女性管理職比率、女性社員割合、育児休業取得率」 「女性によい福利厚生や取り組み」や、「女性活躍推進に関する導入制度や取り組み」「特に施策があった効果」などを審査。 シーボンは、社員・管理職ともに女性割合は高く、ショートタイム正社員制度や育児復帰セミナー、社員の家族を会社に招待するファミリーイベント等、 さまざまな制度と取り組みで女性のライフステージにあわせた活躍の場と文化作りを醸成化していく点が評価された。
 このほかにも、シーボンでは、2013年12月にES向上推進室を設置し、社員の声を聞きながら積極的な制度の活用とお互いをサポートし合う社内風土づくりを行っている。 これまでの主な取り組みとしては、ショートタイム正社員制度、定年延長、ウェルカムバック制度、シーボンファミリー・デイの実施、社内報でのロールモデル紹介、 セカンドキャリア研修など。これらの制度によって、育児休業取得率は2020年度は98.4%、勤続年数は同10.2年といずれも向上している。

性別年齢問わず働き易さ追求
 コロナ禍によって、テレワークの推進など働き方改革が進んだが、ナリス化粧品では、こうした時代の流れに先駆けて、 従業員のライフスタイルに合わせた多様な環境を整備してきた。性別を問わず、誰でも働きやすい社内環境を構築している。
 同社は、「女性の活躍推進」が社会的に注目される15年以上前から、産前休暇以外の制度について、男性社員にも同じ制度の適用を行ってきた。 2017年には、育児と介護に関わる人のための両立支援を目的とした「サポートブック」を作成するなど、一般社員だけでなく、管理職の理解を深める教育を行い、 環境整備に努めてきた。これらの取り組みは社会的にも評価され、2018年12月には、「forbes japan women award」、2020年2月には、 「大阪市女性活躍リーディングカンパニー優秀賞」をそれぞれ受賞した。
 女性をメーンターゲットとした取組みだけでなく、男性を対象としたより働きやすい環境整備にも努めている。2020年6月には、 男性の育児休暇取得者増を目的とした「パパブック」を作成。男性育休取得の現状や育休取得の必要性、育休取得のメリット、育休取得の準備、 育休取得体験者談などを掲載し、女性だけでなく男性の働き方改革にも力を入れている。それら結果、2020年度の男性育休取得率は20%で、 取得者のうち3分の2が3カ月の育休を取得した。  また、別の視点で見ると、製品開発にも男性、女性という枠組みにとらわれない動きもみられる。2月10日には、 ドラッグストアなどで展開するナリスアップブランドにおいて、ジェンダーフリーの肌荒れ・肌悩みに対応する薬用ブランド「アクメディカ」から、 初めてのUV乳液「アクメディカ 薬用 UVミルク」を発売した。また、角層ケアブランド「ネイチャーコンク」シリーズは、 発売当初は30代女性をメインターゲットとするブランドだったが、現在は、マスク着用による肌荒れの悩みに対応するニキビ予防の効果も追い風となり、 カップルや家族で使用するユーザーも増加している。さまざまな層に使用者が広がっており、「ジェンダーレスブランド」「エイジレスブランド」となりつつある。

(続きは2022年3月17日号参照)