米MLMマーケット 「和解金」封じられたFTCが反転攻勢

MLM含む1100社に〝警告書〟一斉通知背景に最高裁判断
 FTCの被害回復権限、明示規定なし

 米国内で営業するほとんどのMLMを含む1100社以上に対して、10月下旬、米FTC(連邦取引委員会)が事実上の“警告書”を送ったことをめぐり、 米MLMマーケットがざわついている。書面は、FTC法に反する儲け話を消費者に持ち掛けた場合、最大4.3万ドルの民事罰が科される可能性を通知。 ルールや罰則は従来からあるものだが、改めて一斉通知した背景には、過去の差し止め請求訴訟で強力な武器となってきた和解金の支払いが、 直近の最高裁判断でストップをかけられる事態となったことが関係。和解金を封じられたFTCが、今度は民事罰による制裁を強化してくる可能性が懸念されている。

400社近いMLMが通知の対象に

 米DSA(ダイレクトセリング協会)は10月27日、今年の米ダイレクトセリング市場規模が417億~429億ドル (小売ベース、約4兆7438億~4兆8803億円)に達するとの見通しを発表した。約401億ドルだった昨年との比較は4~7%の拡大。 昨年の市場規模も前年比14%増と伸ばし、DSAの統計史上、初めて400億ドルを超えた。コロナ禍にもかかわらず、 ビジネスモデルのオンラインシフトや従事者数の増加などを背景に、米市場は好調をキープしている。
▲10月26日に米FTCがMLMを含む
1100社以上に送った書面
(写真はひな形版)は、
不公正・欺瞞的な行為・慣行を禁じた
FTC法に反した場合、最大4万3792ドルの
民事罰の対象になる可能性を強調
 一方、この発表の前日となる10月26日、今後の不安材料になり得る可能性のある通知がFTCから出た。通知のタイトルは「マネー・メイキング・オポチュニティに関する罰則規定」。 通知を受けた事業者は、ビジネスチャンス、フランチャイズ、コーチング、ギグワークなどをビジネスモデルで謳う米国内の1154社。 これには400社近いMLM主宰企業も含まれ、実態として、米国内で営業するほとんどのMLMが通知を受けた形となった。

5条違反の儲け話に最大4.3万㌦の罰金

 通知は、自社のビジネスモデルが不公正・欺瞞的な行為・慣行を禁じたFTC法第5条をはじめとする法律に反していないか「確認するために必要な措置を取ることを勧める」と記載。 そのような禁止行為はFTCによる差し止め請求訴訟の対象になり得ることや、差し止め命令につながった過去の複数の訴訟が例示された。 事例には「ホリデイマジック」「スカイビズ」「ビマ」など、よく知られたMLM案件が含まれる。
 また、FTC法の考え方を補完する複数の公的ガイドラインも紹介。この中には、18年1月にFTCが作成・公表した、 MLMが遵守すべき「?カ条のビジネスガイダンス(BusinessGuidanceConcerningMultiLevelMarketing)」も含まれる。
 さらに、1回の違反行為につき最大4万3792ドル(約500万円)の民事罰(CivilPenalty)が科せられる可能性があると強調。 罰金の額は、FTC法の条文(第5条の(l)、(m)(1)(A)、(m)(1)(B))で1万ドル以上とされているが、 連邦民事制裁金調整法改正法に基づくインフレ調整が反映されている。今年1月、上限の約500ドルの引き上げも行われた。

「騙した企業に重い代償」

 通知と同時に行ったプレスリリースの中でFTCは、コロナ禍で多数の国民が経済的困窮に直面する中、儲け話を謳う広告宣伝が急増していると指摘。 事業者に法令遵守と違反行為の抑止を求めるため、ペナルティがともなうことを通知したと説明した。 FTC消費者保護局長の名前でも「今回の通知は人々を騙した企業が重い代償を払うことを確実にするもの」と、その意義を強調した。
(続きは2021年12月2日号参照)