「消費者団体訴訟」制度の改正
検討会が報告書 「慰謝料の請求」「個人の提訴」を可能に
特定適格消費者団体(以下特定団体)に被害回復訴訟の権利を与えた消費者裁判手続特例法の見直しを議論していた消費者庁の 「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」(座長=山本和彦一橋大大学院法学研究科教授)は9月28日、画一的に算定できる慰謝料も請求の対象に加えることや、 悪質商法に関与した個人も提訴可能とすることなどを提言する報告書をまとめた。特定団体が勝訴した場合の被害者への連絡を事業者にも行わせたり、 新設する指定法人に特定団体の事務手続きを委託できるようにするアイデアも盛り込まれた。 11月7日まで意見募集を行った後、同庁は来年国会へ特例法の改正案を提出したい考え。
16年の消費者団体訴訟制度スタートから5年を経過。これまでの運用状況を踏まえ、消費者にとっての利便性、 特定団体の社会的意義や役割などの観点から検討を進めていた。
過去5年の主な訴訟は、消費者機構日本(東京都千代田区)が女性受験者等の差別入試問題で東京医科大と順天堂大を提訴。東京医科大には昨年3月勝訴し、 受験費の返還に向けた手続きが進行中。順天堂大相手の訴訟も10月6日に勝訴が確定した。埼玉消費者被害をなくす会(さいたま市浦和区)は、 給与ファクタリングの「ZERUTA」を相手取った訴訟で2月、勝訴。来年以降の返金開始を見込んでいる。
報告書において、訴訟における請求対象への追加を「許容できる」とされた慰謝料は、 被害の実態や金額の算定根拠となる主要な事実関係が「相当多数の消費者」の間で共通するケース。このような画一的に算定される慰謝料は、 適切・迅速な審理を妨げないと判断された。現行法に基づく消費者機構日本の入試問題訴訟では、大学への既払い金である入学検定料の支払い義務が認められた一方、 受験のための旅費、宿泊費は認められていない。
提訴を可能とする個人は、悪質商法事案において事業者と故意もしくは重大な過失による共同不法行為責任を負うケース。 特定団体が仮差押え等を行う前に、事業者の財産を個人に移して隠す逃げ得≠ェ許されないようにする。
また、現行法は、被害者と直接的な契約関係がないものの契約締結の勧誘を担当するなどした事業者を被告の範囲に含めているところ、 景品表示法の不当表示行為にからみ、非契約当事者の事業者が被告となり得る解釈を明確化する必要性に言及した。
さらに、現行法が、一段階目の訴訟で「共通義務」の存否を合意せずに和解することを制限しているのに対して、報告書は、 「個々の事案に応じて柔軟に和解内容を調整可能とすることが望ましい」として、制限する条項の削除と和解例をガイドライン等で示すことを提案した。
(続きは2021年11月4日号参照)