特商法改正案が国会に提出 電磁的手法を可能に、「書面交付」と「ク・オフ通知」

合理的根拠要請権の拡大、罰則強化・収益没収は見送り


 昨年8月に「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」がまとめた報告書に基づき、消費者庁が策定していた特定商取引法の改正案が3月5日、 閣議決定を受け通常国会に提出された。成立の場合、一部の規定を除いて公布から1年以内に施行される。昨年11月の内閣府・規制改革推進会議で浮上した、 紙による法定書面の交付義務をもつ6取引類型に電磁的交付を認める改正を盛り込み、2月の消費者委員会建議を受けてクーリング・オフの電磁的通知も可能とする。 一方、報告書で提言されていた、合理的根拠要請権を過量販売でも行使可能とする改正や罰則の引き上げ、違法収益没収制度のアイデアは見送られた。
事前の承諾取得のあり方は政令で
 申込・契約・概要書面の3書面について、事前に消費者の承諾を得れば「電磁的方法により提供することができる」(法案条文より)ようにする。 書面が消費者に到達したとみなすのは、契約申込者が使用するパソコン等の電子計算機に「備えられたファイルへの記録がされた時」とする。承諾の取得のあり方は政令で定める。 同5日の定例会見で消費者相は、承諾のあり方を問われ、「大事なのは消費者の立場に立つこと」「デジタルを望む消費者と望まない消費者がいる。 それぞれのニーズに応じて対応ができるようにする」と述べた。
 ク・オフの電子化は、書面に加えて「電磁的記録」による契約申し込みの撤回、売買・役務提供契約の解除をできるようにするもの。 電子メール等による通知が効力を生じるタイミングは、電磁的記録媒体を「発送した時」とした(現行法は「書面を発した時」)。
禁止命令を強化立入対象は拡大
 法執行強化関連の改正は、業務禁止命令を受けた個人事業主や「役員等」が、グループ会社などの「特定関係法人」で処分対象となった取引類型と同じ業務を行っていた場合、 その個人事業主や「役員等」に対して、「特定関係法人」で同業務に携わることの停止を命じることができるようにする。現行法の禁止命令は、新たに同業務の会社を設立したり、 他社で同業務に新たに携わることを対象としているが、既存の別会社で同業務に携わりつづけることは禁じていないことから、抜け穴を防ぐ狙い。
 さらに、業務禁止を命じられる対象を拡大。現行法は、処分日から遡って60日以内に「役員等」だった人物を対象としているが、これを1年以内に伸ばす。
 立入検査の対象も拡大。処分候補の事業者から業務の委託を受けた事業者の拠点等に立ち入って、帳簿や書類などを調べられるようにする。同庁取引対策課によれば、 商品の倉庫やデータを保管するサーバー施設などが新たに該当することになるという。
 また、立ち入りできる拠点等を「事務所、事業所その他その事業を行う場所」と変更。これにより、 セミナー会場として利用したホテルといった恒常的な拠点ではない施設等も調査できるようになるという。
被害回復訴訟に処分資料を提供
 健康食品のネット通販等で相談増加が問題視されている詐欺的な定期購入商法の関連では、定期購入でないと誤認させる表示等に対する直罰規定を導入。 誤認させる表示で申し込んだ場合、取り消せる制度も新設する。通信販売自体に契約解除妨害行為の禁止規定も設ける。送り付け商法(ネガティブオプション)関連は、 商品を消費者が自由に処分できるまでに必要な14日間の期間を撤廃。事業者が商品の返還を請求できないことも明記する。
(続きは2021年3月11日号参照)