特商法の「書面交付の電子化」

消費者委で〝集中砲火〟、批判相次ぐ

 紙による交付しか認められていない特定商取引法の法定書面について、電磁的交付を解禁する方向性を消費者庁が示したことをめぐって、消費者委員会は1月14日の第335回本会議で同庁をヒアリングし、 大半の委員が電子化に反対か慎重な検討を求める意見を述べた。電子化案の是非や課題の議論が不十分なこと、消費者トラブルを助長する懸念、前提となる消費者の承諾取得への疑問――などが理由。 同庁は、交付義務がある全ての取引類型で電子化を解禁する考えを示す一方、クーリング・オフの電子化は明言を避けた。消費者委は同20日の本会議でも、電磁的交付に関する関係団体ヒアリングを予定する。
▲消費者の承諾が得られた場合に限って、
   訪販や連鎖販売を含む6取引類型の法定書面
  (契約書面・概要書面)交付を電磁的手法で行う
   ことを認める方針を示した消費者庁に対して、
   1月14日の消費者委員会本会議(=写真)で
   委員から批判的意見が相次いだ

 
消費者相談の現場「やってられない」

 書面交付の電子化を認める案は、昨年11月の内閣府・第3回成長戦略ワーキング・グループ(以下WG)で浮上。特定継続的役務提供(以下特役)における電子化の求めに、 消費者庁側が「電子化する方向で検討したい」と応答していた。14日の本会議では、同庁の笹路健取引対策課長が、電子化に必要な改正を盛り込んだ特商法改正案を通常国会(18日召集)に 提出するスケジュールを示し、「細かい対策は政省令、ガイドライン、通達等々で整備していきたい」とした。
 これに対して、委員からは電子化案に批判的な意見が殺到。「相談員を代表して申し上げる。(相談現場は)やってられない。すごく危惧している」(清水かほる委員・全相協中部支部長)、 「時代の要請はあると思うが、性急という印象はぬぐえない」(丸山絵美子委員・慶大教授)、「十分な議論もせず、拙速に進めることは反対。被害実態やトラブルの防止など検討したうえで判断すべき」 (木村たま代委員・主婦連事務局長)、「解決されていない問題が電子化でさらに拡大していくことへの懸念が歴然。拙速な改正にならないように是非お願い」(受田浩之委員・高知大理事)、 「デジタル化に反対するものではないが、あまりにも拙速な電子化は大変危惧する」(大石美奈子委員・NACS代表理事)などの意見が出た。
紙と電磁的交付「効果、全く異なる」

 明確な賛同は「選択肢、利便性の拡大につながる」(柄澤康喜委員・MS&AD会長)とした1人にとどまった。笹路課長からは、これまでに消費者団体、 事業者団体、弁護士と「(電子化案について)内々で意見交換してきた」とされた。
 相談員の立場から反対意見を述べた清水委員は、「消費者は契約書を渡された時、サインした時、2~3日後に頭を冷やした時、その契約を認識して、クーリング・オフができる」として、 紙の書面交付と電磁的交付は「全く効果が異なる」と強調。被害の未然防止につながった例として、「福祉関係者が消費者の自宅を訪問したら、契約書が何枚も出てきて『これなんですか?』と。 (消センに)つなげていただき救済できた」といったケースを紹介した。
 木村委員は、すでに電磁的交付が認められている他の法令と異なり「特商法には登録制も重要事項の説明義務もない」などとし、「横並びに扱うことはできない」と述べた。
特役のみの電子化「理由、見つけづらい」

 本会議では、笹路課長より、WGで要請された特役だけでなく、訪問販売や連鎖販売取引など他の類型(交付義務のない通信販売除く)でも電磁的交付を可能とする同庁の方針が初めて示されたが、 これにも委員から批判的意見が相次いだ。
 丸山委員は「特役で社会実験的に始め、研究会などで制度設計を練ってから拡大する手法を取れない理由はなにか」と質問。笹路課長は「(WGで)言われたことだけをやればいいということでは決してない」 「法令上の全体の構成とかロジックとかも考え、特役だけで導入すればいいという理由のほうが逆になかなか見つけづらい」「特商法は(異なる類型間で)だいたいパラレルな規定を整備している。 合わせて用意をしておくことで進めるほうが法令上は適切なのではないか」と応答した。
(続きは2021年1月21日号参照)