NMI宮澤代表に聞く「特商法・預託法検討委」報告書 ㊦

「共通の敵」、特商法規制の新たな概念に
▲ネットワークマーケティング研究所 
  宮澤 政夫代表
いわゆる「販売預託商法」の規制を検討していた消費者庁の「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」(以下検討委員会)が 8月に報告書をまとめた。同商法の原則禁止に筋道をつけただけでなく、高齢者等の〝脆弱な消費者〟を守るためとして特商法でも幾つかの改正が予定されている。 報告書に基づく法改正がダイレクトセリング(DS)業界に及ぼす影響について、連鎖販売取引を中心に業界の課題を分析する ネットワークマーケティング研究所(横浜市)の宮澤政夫代表に聞いた。  (インタビューは9月30日にZOOMで実施)

販売預託と訪販等の複合モデル「不可」に

 前回(11月5日号4面)に続き、消費者庁の「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」(以下検討委員会)が8月にまとめた 報告書のポイント、報告書の内容に基づく法改正がダイレクトセリング業界に及ぼす影響について、ネットワークマーケティング研究所(NMI)の 宮澤政夫代表に聞いた。

懲役5年、本丸は違法収益の没収か

  ―――報告書は特商法の罰則強化も提言した。提言の内容や検討委員会での議論を踏まえると、不実告知等の禁止行為における懲役の上限を現行の3年から 5年に引き上げた上で、違法収益を没収して被害者に分配するアイデアが視野に入れられている。
 「不実告知違反は行為規制の中核をなす禁止行為の一つ。通信販売を除く取引類型に入っており、実際に懲役が5年以下に引き上げられれば大きな改正となる。 ただ、今回の目的は、上限を長くして抑止効果を高めること以上に、収益を没収できるようにすることにあるようだ。被害者に分配するだけでなく、 適格消費者団体による活用も考えているかもしれない」
  ―――被害回復を可能とするには、不実告知等で得た収益を組織的犯罪処罰法上の「犯罪被害財産」の対象とする法改正が必要で、ハードルは低くない。
 「それはそう思う。が、実際に成立すれば、ハードルの高さと同じくらい、その影響も大きいだろう。懲役の上限を引き上げて 収益没収につなげようという意見は、法的にテクニカルな話ということもあって、検討委員会でも多くの委員が積極的に述べたわけではなかった。 しかし、報告書で触れられたからには、改正の可能性があると見ておくべきではないか」
 
脆弱性を持つのは「全ての消費者

―――報告書全体に関する所感を伺いたい。
 「今回の検討委員会と報告書を境に、消費者行政が大きく変わっていくのではないか。変化の兆しは以前から見られ、 その一例が(学生向け消費者教育教材の)『社会への扉』。これが使われ始めた2~3年ほど前から、 消費者保護と消費者教育の両輪が重視されるようになってきた。旧訪問販売法が出来たのが?年で、特商法に変わってからでも?年が経つ。 時代が大きく変わり、事業者も消費者も変わる中で、特商法も変わらざるを得ない」
  ―――特商法の法制度としてのあり方や執行の方向性について、どのような示唆を報告書から読み取ったか。
 「まず大きいと考えるのが、『脆弱な消費者』の捉え方の変化。脆弱性につけ込む悪質商法対策の前提として、 『現在では、取引の際の状況次第で全ての消費者が脆弱性を有していると捉えるべき』と書いている。これまでよく言われてきた『脆弱な消費者』は、 あくまで消費者の一部で、その具体例が高齢者や若者だった。この人たちを保護する必要があるという論理だったが、 今回の報告書は『全ての消費者が脆弱性を有している』としている。ここで思い出されるのが、消費者契約法の改正を議論した有識者会議。 〝全ての消費者は脆弱〟〝誰にでもつけ込まれる可能性はある〟という意見が頻繁に見られた。新しいパラダイムが示されたと感じている」
(続きは2020年11月5日号参照)