シリーズ・特商法改正 「懲役5年」「収益没収」罰則強化案の行方は?

罰則の引上げ 候補は「不実告知」「重要事項不告知」「威迫・困惑」か
組犯法の「犯罪被害財産」、対象になれば収益没収可能に
 8月に最終報告書をまとめた消費者庁の「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」(以下検討委員会)。 メインテーマだった販売預託商法および詐欺的な定期購入商法の対策に一定の筋道をつけ、来年の通常国会への改正法案提出が予定されている。 一方で、これら対策ほどには注目を集めていないものの、マークすべきと考えられる提言が報告書には盛り込まれた。その一つが特商法における罰則の強化。 検討委員会での議論を見ていくと、一部禁止行為における懲役の上限を3年から5年に引き上げた上、収益を没収して被害者に分配するアイデアが浮かび上がる。 実現した場合、どのような影響を業界にもたらす可能性があるのか。
検討委報告書で「検討すべき」
 「特定商取引法における不実告知等の禁止の規定に違反した場合について、詐欺罪等の法定刑も勘案しながら、消費者被害の未然防止に資するとともに、 違法収益の没収も可能となるレベルへの罰則の引上げを検討すべきである」。
 8月の検討委員会報告書に盛り込まれた一文だ。現在、消費者庁において、この提言に沿った特商法の罰則引き上げが検討されつつある。
 検討委員会で提言につながる議論をリードしたのは弁護士の池本誠司委員。消費者問題をテーマとする数々の有識者会議で委員を務め、 販売預託商法規制の必要性を建議した消費者委員会でも中心的役割を担ったキーパーソンだ。
 検討委員会では、売上高が?億円以上の事業者の特商法処分が増加傾向にあることなどを指摘し、被害救済を促すには現行法の罰則は不十分と強調。 現行法で3年以下となっている懲役を5年以下に引き上げ、違法な収益を没収して被害回復に結び付けるための制度の整備が必要と訴えた。
 
「実務的な検討」取引対策課が着手
 悪質商法で生じた消費者被害の回復は、事務局を務めた同庁取引対策課も、検討委員会の2月の初回会合で論点の一つにあげている。 議論のたたき台として提出した資料において、「被害者救済の抜本的強化」のために民事ルール等を整備する考え方を示していた。
 ただ、この時点で事務局が主に念頭に置いていたと見られるのは、販売預託商法対策の一環としての被害回復のあり方。資料では、 不実告知等があった契約を消費者が取り消せるようにすることや、適格消費者団体による差し止め請求権の行使対象にすることといった、 すでに特商法で導入済みの規制を預託法にも取り入れるアイデアが中心だった。特商法の罰則を強化することには具体的に触れていなかった。
 が、報告書で「違法収益の没収も可能となるレベルへの罰則の引上げを検討すべき」と盛り込まれたことを受け、現在は方針をシフト。 報告書に基づく取り組みの進捗状況をヒアリングした10月8日の消費者委員会本会議で、取引対策課長から、 罰則の引き上げと被害回復を可能にするスキームに乗せるために、「現在、具体的な、実務的な検討を考えております」 「罰則の強化と一体でこれ(=被害回復)が実現していくということを今、検討中」であると説明された。
06年改正で設置被害者給付制度
 一方、現行の特商法には行政が直接、被害の回復を図るために行使できる権限は存在していない。消費者裁判手続特例法に則り、 「特定適格消費者団体」が被害回復請求訴訟を起こせる規定はあるが、同団体はあくまで行政から独立した組織になる。 また、特商法の条文に手を入れて行政による被害回復を可能とすることも、今回は予定されていない。
 では、どのようにして被害回復を図るのか。具体的には、組織的犯罪処罰法(以下組犯法)における「犯罪被害財産」の対象とするアイデアが有力となっている。
 組犯法は06年の改正で、刑事裁判で有罪となった事業者が被害者から得た金銭や資産などを「犯罪被害財産」とみなし、これを国が没収して、 被害者に給付できる救済制度を新設した(組犯法13条2項。給付の仕組みは「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律」で規定)。
没収対象の懲役「大体5年」から
 没収の対象になる主な犯罪行為と財産は、刑法の誘拐罪における身代金、出資法に反する預り金や高金利、補助金適正化法における不正に得た補助金など。 このほか、民事再生法や会社更生法、破産法を悪用して詐欺更生で得た金銭等も没収の対象となっている。
 罰則を引き上げて被害回復を可能とするように意見した池本委員によれば、組犯法で財産の没収が可能となっているのは重大な犯罪行為に限られるという。 刑法学者の分析によれば、具体的には懲役の上限が2~3年のケースは対象となっておらず、「4年という場合もあるが、だいたい5年」からが 対象になっているという。
 したがって、特商法における懲役の上限を3年以下から5年以下に引き上げれば、組犯法で没収できる「犯罪被害財産」の対象とするための〝地ならし〟が 可能になる。消費者委員会のヒアリングに答えた取引対策課長の考え方も、このアプローチに沿ったものと言える。
(続きは2020年11月5日号参照)