仮想通貨MLM 「ビットマスター」破綻の内幕㊥

16年の資金決済法改正、破たんの引き金に 共済MLMも保険業法改正きっかけに撤退
 約109億円の負債総額に対し、9月9日の第1回債権者集会までに回収した現金はわずか約1億7000万円という、破産手続き中の「ビットマスター」 (以下ビット社、鹿児島市)。ビットコイン(BTC)が取り出し不能となった一因の事務所火災では、放火の疑いも浮上。 配当に向けた今後には困難が待ち構える。
 一方、経営破たんに至った過程を見ていくと、仮想通貨MLMの開始から3年後に行われた関係業法の改正によって風向きが大きく変わり、 事業を瓦解させた経緯が浮かびあがる。さらに、同事業に乗り出す前に別口のMLMを手掛けていたところ、こちらも関係業法の改正をきっかけに業態を転換。 同社が手がけた2つのMLMのいずれも、法改正によって劣勢を強いられ、立ち行かなくなっていた。
「かもめ」から「のぞみ」に
 ビット社が仮想通貨MLMを開始したのは13年。ただ、会社の設立は86年にさかのぼる。当時は有徳社を名乗り、印鑑や浄水器の訪問販売を行っていた。 これらの販売自体は破産申請時まで続けていたという。
 90年代は、フォーバル総合研究所の情報サービス端末MLM「かめもサービス」の代理店として活動。MLMに関わったのはこれが初めてとみられ、 代理店をやめた後、01年から「のぞみ共済」という共済MLMを自社で始めた。
 「のぞみ共済」は、割安な葬儀サービスなどを提供。サービスは別組織が運営し、有徳社がバイナリー型プランで会員募集を請け負っていた。
無認可共済、続々撤退
 しかし、「のぞみ共済」のような根拠法や監督官庁を持たない〝無認可共済〟を問題視した金融庁が、04年に保険業法の改正に着手 (05年に改正法成立、06年に施行)。〝無認可共済〟は「小額短期保険」と呼ぶ許認可業態に移行させられ、 要件を満たせない多くの共済MLMが撤退を余儀なくされた。
 この流れで、有徳社も募集方法をMLMから代理店型に転換。掛け金が月2000円とMLMの単価相場から低く、その代償としてボーナスを抑えていたため、 ビジネス活動が低調になりかけていた事情もあった。
 債権者集会報告書によれば、07年から福利厚生サービスMLMの「安心生活ゆいの会」を新たに始めたが、事業譲渡。その後に始めた同系統の 「アルスサービス」事業は会員募集に苦戦し、12年に活動を停止した(この間の10年にユートクへ社名変更)。
▲ビットコインの管理を委託していた
 関係会社が預り金を流用していたとして、
 18年4月に改正資金決済法で業務停止を
 命じられた
金融庁、再び改正着手
 そして、活動停止の翌年、仮想通貨MLMを開始。ボーナスの一部をBTCで支払うという手法が当たり、過去に手掛けたMLMを大きく上回る 約111億円を売り上げ(累計額)、社名もビット社に変えた。
 その一方で、仮想通貨マーケットは、かつての無秩序な〝無認可共済〟業界を彷彿させるかのように、悪質な事業者や手口が跋扈。 14年のBTC取引所「マウントゴックス」破たんなどを受け、保険業法の改正で〝無認可共済〟を一掃した金融庁が、 今度は資金決済法の改正による仮想通貨規制に乗り出し、16年改正で仮想通貨交換業に登録制が導入された。  この交換業登録制を境に、ビット社の目論見が狂い始める。
(続きは2020年10月8日号参照)