ポーラ 質の高い販売員こそ〝美容のプロ〟集団に 海外でもノウハウ活用

 ダイレクトセリング化粧品最大手のポーラ(本社・東京都品川区)。同社の「ポーラ・ザ・ビューティー」の展開は、多くの企業が従来型訪販から脱却し 新しいビジネスモデルにシフトする先駆けとなった。商品面でも、最高峰ブランド「B.A」による大規模なブランディング、 初のシワ改善美容液「リンクルショット」などのヒットアイテムを展開。この1月に経営体制を刷新し、初の女性社長として及川美紀氏が就任した。 国内販売現場において、スピード感のある接点強化に乗り出す。
イメージの改善と若年層の参加 
 新社長に就任した及川美紀氏は、1991年の入社後、わずか2年で営業の現場(埼玉)に出向。当時、訪販市場は〝斜陽〟と揶揄されていたが、顧客との関係性を構築し、 人と人のつながりによってビジネスを生み出していく面白さにやり甲斐を感じたという。その後、2009年に商品企画部長として本社に戻るまで埼玉エリアの現場を担当 (2007年にはエリアマネージャー就任)。商品企画では、最高峰ブランド「BA」の大幅なリニューアルを実施。有名女優を起用した宣伝も奏功し、 ポーラが誇る基幹ブランドに成長した。その後は取締役として訪販多様化事業担当(アパレル、催事など)、訪販営業担当、トータルビューティー事業担当、事業本部担当を歴任。 その手腕が評価されてこのほどトップに就いた。
 ダイレクトセリング化粧品最大手の販売現場を長年担ってきた及川社長は、今後の国内市場は「右肩上がりの時代ではない」と言及する。とはいえ、潜在ニーズは確実にあり、 ブランドへの入り口をいかに下げるとともに、接点を強化することが重要と指摘する。カギは販売員の確保と教育だ。
 販売現場を担うビューティーディレクター(BD)は、約4万5000人。2015時点では万人が登録していたが、「愛用者的販売員」の登録を解除することで、 プロ意識の高い人材の育成・確保に舵を切った。「家事・育児をしながら空いている時間に」出来る仕事を求める主婦層が中心だったかつての時代とは、 社会情勢が変わり女性の就業環境も多様化しており、販売員確保が難しくなっている。現場のビジネスモデル自体も様変わりしており、 ポーラ・ザ・ビューティーやエステインといったサロンビジネスによる売上が8割以上を占める(トータルビューティー事業)。 BDに必要なスキル・ノウハウも従来型訪販の時代とは大きく異なり、美容意識が高く、ビジネスマインドももつ〝美容のプロフェッショナル〟が不可欠になっている。
 現在、BDへの入り口となっているのが、同社が全国各地で開催している「ポーラ リクルート・フォーラム」。20代~30代の女性で、転職や起業を考えている人、 美容分野に高い関心をもつ女性などをメーンターゲットに定期的に開催している。中にはBDとしてセカンドキャリアをめざすシニア世代の女性も参加しており、 老舗ブランドとして幅広い世代に受け入れられている様子が窺える。また、売り手市場と言われる就職戦線だが、地方や高卒の就職活 動は厳しい状況であることもあり、若手女性がBDを働き方の1つとして考え、店舗へ見学に訪れるケースもあるという。
かつては大量登録・大量離脱が当たり前だった販売員の確保だが、対象を絞り込み精鋭の教育に焦点を当てた結果、継続率も向上しているという。
現場の裁量拡大エリア毎に特色
同社は今後、各エリアの裁量権を拡大して、地域に適したイベント、SNSによる情報発信など、独自性のある施策を増やして顧客との接点強化を図っていくとしている。 横手喜一社長時代の2016年、ポーラは大規模なブランドイメージの改革を実行した。その一環として、販売現場においては、基本的なルールの徹底や身だしなみ、 さらには「ポーラブランド」の価値についての再認識をメーカー主導で実施してきた。その結果、ブランドイメージの改善が図られたが、 一方では現場の裁量を制限してきたこともあり、各エリアの裁量を拡大して活性化を図るとしている。同社はこれまでにも各エリアのサポートを行ってきた。 例えば、地方百貨店の閉店で購入チャネルを失った顧客へのフォローも想定した移動型ブティック「ムービングサロン」は、赤字事業だったものの各地方の営業所と連携して集客し、 話題づくりを行った。このほかにも、秋田県や同県仙北市、福岡県北九州市と連携協定を締結。地域の活性化や就労サポートなどに寄与する取り組みを行ってきた。
 これらの販売員教育や店舗運営のノウハウは、同社が成長を見込む海外市場でも重要な役割を果たす。昨年1月に設立した「ポーラ ユニバーシティ」は、 それまで事業別で行ってきた人材育成を集約することで、販売員のレベルを平準化・向上するためのもの。設立から1年を経て、バラつきのあった海外市場(中国、香港、タイ、台湾) の教育内容も統一されてきたという。
様々な不安要因 新商品投入で払拭
 業績面では油断できない状況が続く。2019年12月期第3四半期におけるビューティケア事業の実績は、売上高が前年同期比5.9%減の1617億9400万円、 営業利益が同20.9%減の246億2500万円。このうち、ポーラブランドは売上高が同8.9%減の1023億500万円、営業利益が同17.6%減の206億7600万円。 国内インバウンド需要の減少が影響したほか、新規獲得が伸び悩んだ。中でもインバウンドのニーズが多かったサプリメント「インナーロック」が落ち込んだ。 マイナス要因としては、昨年10月の消費税率引き上げ、さらには新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される。一方、1月にはヒット商品「リンクルショット」の第2弾となる 「ジオセラム」が発売されたほか、新規有効成分を配合した美白ブランド「ホワイトショット」、最高峰ブランド「B.A」からは、紫外線・近赤外線から肌を守りつつ肌に良い 「赤色光」を透過してケアする「ライトセレクター」を投入し、売上拡大を狙う。